大学紹介今和7年度学位記授与式式辞
式辞
本日ここに、令和7年度学位記授与式を挙行するにあたり、沙巴体育官网_新沙巴体育【app平台登录】の教職員を代表して、お祝いと期待の言葉を述べたいと思います。晴れてこの日を迎えた1163名の学部卒業生、73名の大学院教育学研究科修了生、そして41名の養護教諭特別別科修了生の皆さん、誠におめでとうございます。計1277名の皆さんを新たなステージに送り出せることは、本学にとって大きな喜びです。
また、御多用のところ卒業生?修了生のために御臨席を賜りました、後援会、同窓会をはじめとする御来賓の皆様方に厚く御礼申し上げますとともに、御家族の皆様には心よりお慶び申し上げます。
学部卒業生の多くは高校生活と大学1年目が、大学院修了生の多くは学部生のときがコロナ禍にあって、人との距離が抑制されながらの毎日でした。その後、社会がコロナ禍から回復に向かう中で、本学は、本来の「人が人を育てる、沙巴体育官网_新沙巴体育【app平台登录】。」に立ち返ってきました。では、その本学での学修を通して、皆さんはどのような力を身につけたのでしょうか。大学では、教育課程ごとに定めた「卒業認定?学位授与の方針」に基づき学位を授与しています。皆さんの専門はそれぞれ異なりますが、それを超えて、共通して培われた力があるはずです。
第一に、専門知識や技能を体系的に修得することによって得た「世界を捉える枠組み」です。物事を感覚や印象だけでなく、構造として理解する力です。
第二に、「科学的方法や態度」の修得です。それは「問いを立てる」ことから始まります。その上で、既存研究を批判的に検討し、自らの立場―例えば自然科学や社会科学、スポーツ科学であれば仮説、人文科学や芸術学であれば解釈といった理論的な見通し、すなわち視座―を明確にします。その視座に基づいてデータや文献などの根拠を分析し、主張を組み立て、正当化していく。これは、学校教育で今後さらに重視される「探究」そのものです。その一連のプロセスの中で、教員から厳しく指摘?指導され、ゼミ室や図書館で「本当にこれでいいのか」と、もがき苦しんだ時間。効率とは程遠い葛藤の積み重ねこそが、皆さんの知性に、人工知能(AI)にはない「重み」を与えたのです。
私は、これを「知的自立」と呼びたいと思います。「知的自立」とは、与えられた答えを受け取ることではなく、問いを立て、自らの責任で考え抜く姿勢です。
さらに皆さんは、「ゼミ活動」や「教育実習」、学科では「地域プロジェクト」などを通して、「多様な価値観への理解」や「根拠に基づく建設的議論」を重ねてきました。とりわけ教育大学として、本学は「実践と理論の往還」を重視してきました。教育実習や地域での活動の中で、理論が現実に揺さぶられ、現実が理論を問い返す。その往復運動の中で、皆さんは実践知を育み、人と人との交流を通して人間理解を深め、「教育マインド」を培ってきました。
さて、今、私たちの社会は様々な点で岐路に立たされています。特に SNS や AI といったデジタル技術の急速な進展は、私たちの生活を劇的に便利にした一方で、これまで社会を支えてきた基盤を揺さぶっているようにも見えます。
SNS では、閲覧履歴などをもとにアルゴリズムが情報を「個別最適化」し、利用者が関心を持ちやすい情報を優先的に表示します。この仕組みは利便性を高める反面、知らず知らずのうちに、似た意見や価値観だけに囲まれる状況を生み出します 1, 2)。
アルゴリズムが「見たい情報」だけを届けてくれる世界は、一見心地よいものです。しかし、その心地よさに無自覚でいれば、異なる意見に向き合う機会は失われ、社会の分断が進みます。いま必要なのは、情報の波の前で一旦立ち止まり、「私は今、自分の頭で考えているか」と自らを問い直す姿勢です。この問いは、皆さん一人ひとりにも向けられています。コロナ禍の頃、「携帯電話の 5G の電波が新型コロナウイルスを拡散している」という偽情報が拡散し、イギリスなどでは 5G 基地局が放火?破壊されるという事件が実際に起こりました 3)。これは、似た意見が反響?増幅し先鋭化する「エコーチェンバー」現象が、実社会に悪影響を及ぼした例です。
さらに、生成 AI の性能は急速に向上しています。2026 年度大学入学共通テストを最新の AI に解かせたところ、得点率は 97%に達したと報じられています 4)。正解が定まっている問いへの対応では、人間は、AI に及ばない場面が出てきています。
一方で、AI には負の側面もあります。「ディープフェイク」と言われる、本物と見分けがつかない偽動画が SNS や動画投稿サイトで意図的に拡散されると、世論の操作が可能となり、社会が分断され、対話が困難になるなど、民主主義の土台を根底から崩してしまう恐れがあります 1)。
以上のように岐路に立たされている私たちの社会ですが、皆さんが本学で培った「知的自立」こそが、デジタル社会の中で生き抜くための最大の叡智となるはずです。皆さんが本学で修得した「世界を捉える枠組み」や「科学的方法や態度」、すなわち、情報を鵜呑みにせず、複数の情報源を比較し、その背後にある意図や考え方の偏りを読み解こうとする態度、そして証拠に基づいて内省的に吟味する誠実な思考、さらには「多様な価値観への理解」や「根拠に基づく建設的議論」は、偽情報やバイアスへの強力な「ワクチン」5)となり、健全な社会を守る力になるはずです。
また、AI は、与えられた前提のもとで、瞬時に正解らしきものを提示しますが、「その前提はそもそも正しいのか」「なぜこれが社会において問題なのか」という根本的な「問いを立てる力」は人間しか持てません。相手の立場に寄り添う「共感」や、複雑な状況下の「倫理的判断」、そして「実践と理論を往還」させて新たな知を生み出す「実践知」や「教育マインド」。それこそが、皆さんが本学で培った知性の姿であり、AI に代替されることはないと私は信じています。
デジタル社会の負の側面を強調し過ぎたかもしれません。AI は、業務効率化による生産性の向上、校務に対する教師への支援のように有益な面が少なくありません。特に、人口減少による人手不足があり、また、働き方改革が求められる社会では、AI の活用は欠かせません。AI を脅威として排除するのではなく、人間と AI が互いの強みを活かし合う「共創」が求められる時代に入ったと感じます 6)。春から教壇に立つ皆さんは、単に知識を伝える存在ではありません。人間と AI の強みを見極めながら、全ての児童?生徒の可能性を最大限引き出す教育に力を発揮してください。
社会はこれからも変化し続けます。AI も進化し続けることでしょう。予測困難ながらも、皆さんの前には、知性と情熱によって「新しく形作ることのできる未来」が広がっています。世界がどれほど複雑になっても、「正しい答えを出す人」である前に、「誠実に問い続ける人」であってください。
多数に迎合するのでも、対立を煽るのでもなく、根拠を確かめ、他者に耳を傾け、自らの立場を省みる。その営みを手放さないでください。迷ったときには、本学で学んできた時間を思い返してください。ゼミで議論したこと、教育実習で直面した困難、作品制作や演奏が思うように行かず立ち止まった時間。それらは、すぐには成果には結びつかなかったかもしれません。しかし、その積み重ねこそが、今の皆さんの人間性を支える基盤です。どの進路であっても「人が人を育てる、沙巴体育官网_新沙巴体育【app平台登录】。」で身につけた力を遺憾なく発揮して、他者と対話し、問い続け、より良い社会の創り手として歩むだけでなく、次世代の社会を担う創り手も育ててください。
最後になりますが、後援会及び同窓会の皆様、経営協議会委員の皆様、御家族の皆様、そして地域の皆様には、日頃から本学の教育?研究にご理解を賜り、沙巴体育官网_新沙巴体育【app平台登录】基金をはじめ様々な形での御支援をいただいていることに、この場を借りて心より感謝申し上げます。皆さんも、御支援への感謝の気持ちを忘れず、これからの人生を送ってください。
皆さんの歩みが、誠実な問いと深い対話によって紡がれ、次世代の豊かな未来へとつながることを心より祈念し、私の式辞といたします。

令和 8 年 3 月 15 日
沙巴体育官网_新沙巴体育【app平台登录】長
田 口 哲
田 口 哲
1) 総務省, 令和 5 年版情報通信白書, 第 1 部/第 2 章/第 3 節:インターネット上での偽?誤情報の拡散等, pp.30-43 (2023)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/pdf/n2300000.pdf (参照 2026-02-25)
2) 日本?米国?独国?中国の中で「SNS等では,自分に近い意見や考え方に近い情報が表示されやすいことに対する認識」は日本は最も低い。詳しくは以下を参照のこと。みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社,令和 4 年度 総務省「ICT 基盤の高度化とデジタルデータ及び情報の流通に関する調査研究の請負」報告書,pp.68-72 (2023)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/r05_01_houkoku.pdf#page=72 (参照 2026-02-25)
3) 鈴木聖子,「5G が新型コロナ拡散」陰謀論 5G 基地局の襲撃が世界に飛び火し,デマ投稿が止まらない理由, ITmedia NEWS, https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2005/25/news054.html (参照 2026-02-25)
4) 株式会社 LifePrompt, 【満点 9 科目!】共通テスト 2026 を最新版 AI に解かせてみた(Chatgpt,Gemini, Claude), note, (2026) https://note.com/lifeprompt/n/nb87edfb2e7ca (参照 2026-02-25)
5) 齋藤 孝道, AI と SNS が書き換える“現実”─自由民主主義を脅かすデジタル影響工作とは,Meiji.net,https://www.meiji.net/life/vol570_saito-takamichi (参照 2026-02-25)
6) Z Wu, D Ji, K Yu, X Zeng, D Wu, M Shidujaman, AI creativity and the human-AI co-creationmodel. InternationalConference on Human-Computer Interaction. pp. 171-190 Cham: SpringerInternational Publishing (2021). https://www.researchgate.net/profile/Mohammad-Shidujaman/publication/352937210_AI_Creativity_and_the_Human-AI_Co-creation_Model/links/60f58d1a9541032c6d5081f6/AI-Creativity-and-the-Human-AI-Co-creation-Model.pdf (参照 2026-02-25)
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